立ち仕事をやられていた方ほど、変形性膝関節症になりやすいと言われています。
立ち仕事によって…
- 膝に体重がかかり続けることによる軟骨の代謝低下
- 膝周りの筋肉の硬直
- 姿勢の崩れ
- その場から動かないことによる全身の柔軟性低下
これらの要因が重なることで負担が蓄積され、膝は変形を強めていきます。
今回は、『立ち仕事が原因で変形性膝関節症になってしまった患者さん』のリハビリ経過を追いながら、どのように対処すべきなのかをまとめさせていただきました。
長年の立ち仕事が原因と考えられる、変形性膝関節症の患者さん
私は以前、変形性膝関節症の患者さんを担当させていただいたことがあります。
現在は定年退職をされていますが、20年以上もスーパーの中にある和菓子屋さんで働かれていた方で、毎日何時間も立ち仕事をしていたそうです。
患者さん自身、姿勢も丸くなり脚もO脚になっている事に気付きながらも、仕事が忙しくなかなか病院に行けなかったとお話しされていました。
よくみさせていただくと、左膝のO脚が目立ち、痛みも左の方が強いとのこと。
立ち仕事と変形性膝関節症の関係を考えながら、リハビリ進めていきました。
立ち仕事は膝にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
そこから確認していきましょう。
立ち仕事は膝にどんな影響を及ぼすのか
立ち仕事による膝への影響をチェックしていきましょう。
膝に体重がかかり続けることによる軟骨の代謝低下
関節の軟骨には血管がないので、”血液による栄養供給もない”ということになります。
では何が栄養を補っているのか?
⇒軟骨は”関節液(かんせつえき)”という、関節の中に存在する液体により栄養供給を受けています。
この関節液は関節を動かすことで分泌されるため、立ち仕事の方の場合は常に不足している状態。
つまり、軟骨の栄養も不足している状態ということになります。
姿勢の崩れ・全身の柔軟性低下
立ち仕事をされている場合、楽な姿勢を探して片足に体重をかけたり、背中を丸くしたりして姿勢が崩れていきます。
またずっと立っているため、腰や背中の筋肉が固くなり、全身の柔軟性が低下していきます。
私達が体を動かす際、”重心移動の9割以上を体幹が行っている”といわれているので、その部分が歪んだり固くなれば、当然体幹を支える膝にも負担がかかるということです。
そして上半身が固定されてしまうので、膝関節の中の一か所だけに体重が集中し、変形が進んでいくことになります。
膝周りの筋肉のこわばる
私達が運動しているときは、全身の筋肉が移り変わるように働いてくれています。
ある一瞬ではこの筋肉が働き、こちらは緩んでいる。
そしてまたある一瞬ではさっきの筋肉がゆるみ、他の筋肉が働いている。
しかし立ち仕事となると、膝周りの同じ筋肉を絶えず働かせている必要があるため、次第にこわばりが強まり、痛みへと発展していく可能性があります。
そして、こわばることで関節の動きも少なくなり、軟骨の代謝低下につながっていくことになります。
以上のように、立ち仕事と変形性膝関節症には深いかかわりがあり、解決のためには、これらの問題に1つ1つアプローチしていく必要があります。
立ち仕事による変形性膝関節症:どういった対処法が必要か
問題点に対する対処法を、確認していきましょう。
動かないことによる軟骨の代謝低下への対処法
これに関しては、関節をとにかく動かすことが大切です。
痛みが強くない方の場合はウォーキング、痛みがあり長距離を歩けない方は自転車(エアロバイク)、水中ウォーキングなどがお勧めです。
しかし、『なかなか時間を作って運動ができない』という方もいらっしゃると思います。
そんな方の場合は、貧乏ゆすりがお勧めです。
貧乏ゆすりは関節を小刻みに動かすことができるので、それだけで軟骨の代謝を高めることができます。
”現代医療では軟骨の再生は難しい”と言われていますが、ご自身で運動することで、軟骨再生を促すことができるということです。
姿勢の崩れ・全身の柔軟性低下への対処法
この問題に関しては、姿勢を修正しながら柔軟性を改善してく必要があります。
変形性膝関節症の場合、ほとんど方に体幹の固さが確認できます。
特に、側屈方向の動きと、猫背による背中の丸さ、この2つが膝に悪影響を及ぼすことが多いです。
下図のように、しっかりと柔軟性を促していきます。
深呼吸をしながら、30秒ほどストレッチをします。
猫背の部分も、しっかりと伸ばしていきます。
引用元:運動能力は背骨で決まるP.39 株式会社マキノ出版 著者:齋藤 應典
図のようなストレッチポールだと高さがあるので、タオルを丸めて筒状にしたものを背中に入れるのもお勧めです。
深呼吸をしながら30秒を目安に伸ばしていきます。
猫背の部分を伸ばし、上半身をしっかり膝の上に戻すようにしましょう。
膝周りの筋肉の硬直への対処法
この問題に関しては、膝周りのマッサージやストレッチを定期的に行っていくことがおすすめです。
根本的な解決にはなりませんが、膝の環境を整えていくには大切なことです。
こわばった筋肉はコラーゲンの配列が乱れているといわれています。マッサージで筋肉をほぐした後、ストレッチで配列を整えていくようなイメージです。
膝周りのマッサージ
ポイントは太ももの前・外側、ふくらはぎの筋肉です。
太ももの筋肉は、椅子に座った状態で体重をかけるように抑えながらほぐしていきましょう。
ふくらはぎの筋肉は、膝を曲げてた状態で立てておき、両方の親指で押す方法がやりやすいです。
※お風呂などで手に石鹸を付けながらマッサージするのもお勧めです。
膝周りのストレッチ
太ももの前後は疲れがたまりやすい場所。
痛みと相談しながら、ストレッチいて行きます。
①大腿四頭筋(だいたいしとうきん)のストレッチ
痛みのない範囲で膝を曲げます。
腰が反りすぎないように注意しながら、30秒を目安に伸ばしていきます。
※痛みが強い方は、マッサージだけでもOKです。
②ハムストリングスのストレッチ
背中が丸くならないように、体を前傾していきます。膝裏からふくらはぎが伸びているのを感じながら30秒を目安に伸ばしていきます。
変形性膝関節症と診断されたからと言って、一般的に言われている筋力トレーニングやストレッチをしているだけでは、なかなか改善しないことが多いです。
なぜ膝が変形してしまったのかを把握し、それに対して的確に対処していくことが大切になります。
最後に、先ほどの患者さんの経過をまとめておきます。
立ち仕事による変形性膝関節症:実際にどんなことをしたのか
リハビリを始めてすぐ、立ち仕事が変形性膝関節症の原因となっていることが予測できたので、関節をとにかく動かすことをお願いさせていただきました。
自転車があるとのことだったので、散歩のような感覚でサイクリングを始めてくれて、ご主人が送り迎えをしていたリハビリにも、自転車でみえるようになりました。
他にも体幹の固さが目立ったので、上記で紹介させていただいた体操を1日3回、朝・昼・寝る前にお願いしました。
マッサージとストレッチに関しては朝と夜、また運動の前後に準備運動・整理運動を兼ねて実践していただきました。
その結果…
O脚が進んでいたせいもあり、正座やしゃがむといった動作の獲得までには至りませんでしたが、膝の痛みを感じることはなくなり、日常生活では問題のないレベルにまでの回復に至りました。
まとめ:変形性膝関節症だからと言って痛いわけじゃない
変形性膝関節症という病名がついてしまい、悩んでいる方もいらっしゃると思います。しかし、ある程度の年齢になられた方の大半に、関節の変形はみられます。
今回紹介させていただいた方のように、O脚があったとしても痛みが軽減することは、”変形=痛みではない”ということなんですね。
病名に踊らされ、漠然と筋トレやストレッチを続ける。その結果時間だけが過ぎ、肝心の痛みは変わらない…。
このような方は、かなりいらっしゃいます。
大切なのは、原因を把握し、その人に合った対処法を選択する事。
『立ち仕事で変形性膝関節症になってしまった』という方は、こちらで紹介させていただいたものを1つでも2つでもよければ実践してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※当てはまる症状があれば、下記の記事も参考にしてみてください。
・【膝の痛み】階段を降りるときがつらい!対処法のすべて
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・【膝の痛み】安静時にも痛むんだけど…その理由はコレです!
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